不動産用語集
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お住み替えコラム
2023.12.22
中古戸建や中古マンションといった既存住宅の調査を行うインスペクションは、2018年の宅地建物取引業法改正により、媒介契約時にインスペクションの斡旋について説明することが義務付けられました。
インスペクションを実施する既存住宅状況調査技術者は、国土交通大臣が登録した専門技術者であり、取引される物件の劣化状況などを調査します。売買取引において売主または買主が依頼することができ、現状を客観的に把握できるため、より安心な取引が可能となります。
この記事では、インスペクションの概要やメリット、そして既存住宅状況調査技術者を選ぶポイントについて解説します。
インスペクションとは、中古の一戸建て住宅やマンションなどの共同住宅といった既存住宅を対象として、基礎や外壁などの構造耐力上主要な部分や屋根、外壁など雨漏りが生じる可能性のある部分を調査し、劣化や不具合などがないかを確認するものです。
ただし、インスペクションは現状における劣化や不具合をできるだけ明確にするものであり、住宅が備えるべき性能を保証するものではありません。また、建築基準法などの法的適合性を確認するものでもないことを理解しておきましょう。
調査を行うのは、国土交通大臣の登録を受けた既存住宅状況調査技術者講習登録団体が実施する「既存住宅状況調査技術者講習」を修了した「建築士」です。(なお、建築士は建築士事務所に所属している必要があります。)
不動産売買では売主や買主は不動産会社との間で「媒介契約」を締結しますが、この時点で不動産会社は売主・買主に対してインスペクションについて説明することを義務づけられています。
この義務付けは宅地建物取引業法に基づくもので2018年4月1日から開始され、国土交通省が行った2022年の調査によると、一戸建て住宅におけるインスペクション実施率は次のような結果になっています。
出典: 国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課「改正宅地建物取引業法の施行状況及び今後の見直しの方向性について(令和5年3月)」
この結果は、法改正施行前の2016年調査の実施率と比較すると大幅に上昇しています。
実際のインスペクションではどのような検査が行われているのでしょうか。
インスペクションで行う調査の対象は次のような部位になります。
検査する観点 | 検査の内容 |
---|---|
構造耐力上の安全性にかかわる部位 |
|
雨漏りや水漏れが発生しているか、発生の可能性が高い部位 |
|
日常生活において支障のある劣化が生じている設備配管 |
|
調査(検査)の範囲や方法は、基本的に目視、つまり建築士が実際に見ることにより行い、足場などを組まずに見える範囲が検査対象です。調査する建築士にもよりますが、軽微な機器を使用して行うこともあります。
勾配屋根は少し離れたところから見ますが、屋根の上に登れる場合はかなり近づいた状態で確認することができます。外壁は1階部分であれば手の届く範囲であるため、打診検査なども可能ですが、2階部分は手が届かないことから基本的に目視だけの検査となります。
実際の調査において検査する部位や方法は調査を行う建築士の判断によりますが、全国で行われる調査の内容をある程度共通のものにするため、国土交通省によって「既存住宅インスペクション・ガイドライン 」が作成されました。
下記はガイドラインに基づき、検査の内容をまとめたものです。なお、木造アパートに関しては「一戸建て住宅」を参考にしてください。
【一戸建て住宅】
検査する観点 | 検査する部位 | 検査の内容 |
---|---|---|
構造耐力上の安全性に係わる部位 | 小屋組、柱や梁、床、土台と床組などの構造耐力上主要な部分 |
|
床、壁、柱 |
|
|
雨漏りや水漏れが発生しているか発生の可能性が高い部位 | 外部(屋根と外壁) |
|
屋外に面したサッシなど |
|
|
内部(小屋組、天井、内壁) |
|
|
日常生活において支障のある劣化が生じている設備配管 | 給水管、給湯管 |
|
排水管 |
|
|
換気ダクト |
|
【共同住宅】
検査する観点 | 検査する部位 | 専有部分・専用使用部分における検査の内容 | |
---|---|---|---|
構造耐力上の安全性に係わる部位 | 壁、柱、梁 |
|
|
雨漏りや水漏れが発生しているか発生の可能性が高い部位 | 内部(天井、内壁) | 【専有部分】
|
|
外壁 | 【専用使用部分】
|
||
屋外に面したサッシなど | 【専用使用部分】
|
||
日常生活において支障のある劣化が生じている設備配管 | 一戸建て住宅と同じ | 【専有部分】 一戸建て住宅と同じ |
ここからは、インスペクションのメリットを売主のメリット、買主のメリット、売主・買主に共通するメリットの3つにわけて解説します。
インスペクションを依頼する前にどのようなメリットがあるのかを理解しておきましょう。
インスペクションを行うことによる売主側のメリットは大きくわけて2点あります。
まず1点目は、物件を高値で売却できる可能性が高くなることです。インスペクションを実施済みの物件は、「専門家が検査した物件」として買主に認知してもらえるため、安心感のある取引が可能になります。そのため買主は多少高値でも購入の決断がしやすくなり、売主にとっても取引を有利に進めやすくなります。
もうひとつのメリットは、引き渡し後のトラブルを未然に防げることです。インスペクションを実施済みの物件は、契約時点で不具合や劣化した部分が明らかになっているため、買主からの想定外のクレームや修繕費の請求リスクを軽減できます。
既存住宅(中古住宅)は一戸建て・マンションともに新築のような保証はついていません。そのため購入する方にとっては、不具合や欠陥などがあるのではないかと心配になるものです。
劣化している部分や不具合な部分の調査・点検を専門家である建築士に依頼し、インスペクションを実施することで、買主が抱くと思われる不安感を払しょくできる可能性があります。
インスペクションを行うことによる買主側のメリットは2点あります。
まず1点目は、安心して物件の購入ができることです。先述したとおり、買主は「物件に欠陥がないか」「入居後に不具合が生じないか」といった不安感を持ちながら購入の検討を行います。購入に至る過程で自身の判断だけではなく、専門家によるインスペクションの結果をもとに物件を客観的に評価できると、よりスムーズに安心感のある取引ができるでしょう。
2点目のメリットは、購入後の資金計画が明確になることです。「売主のメリット」でも述べたように、インスペクションを実施した物件は契約時点で不具合や劣化した部分が明らかになっています。そのため、引き渡し後の修繕やリフォーム計画が立てやすく、資金計画も明確になるという利点があります。
インスペクションを行うことで、売主は引き渡し後に生じる可能性のあるトラブルを軽減でき、買主は安心して物件の購入を決断できるというメリットは先述したとおりですが、この両者の安心感を担保するのが「保証保険」です。
新築物件には「10年保証」が義務づけられていますが、既存住宅(中古住宅)には公的な保証はありません。しかし、新築の「10年保証」と同様の保証内容を1~5年間行う「既存住宅売買瑕疵保険 」という民間の制度があります。
インスペクションの実施により加入条件を満たしている物件は、既存住宅売買瑕疵保険に加入することができます。これにより、売主は契約不適合責任の負担を軽減でき、買主は万が一の不具合や欠陥に起因する事故への保証を受けることができます。
インスペクションの費用は建築士事務所がそれぞれ決めており、一律ではありません。また、検査の内容と物件によっても金額は異なります。
一戸建て住宅では、目視によるものと簡単な器具による検査の場合、およそ5~7万円が相場 となっています。
簡単な器具としては次のようなものがあります。
また、建築士事務所によっては床下の検査や小屋裏検査などを併せて実施する場合もあり、費用が数万円加算されることもあります。
インスペクションを実施するためには既存住宅状況調査技術者に依頼する必要がありますが、不動産会社からの斡旋により依頼する方法と、自ら探して依頼する方法の2つがあります。
インスペクションを実施している既存住宅状況調査技術者は「既存住宅状況調査技術者 検索サイト」あるいは、各「既存住宅状況調査技術者講習登録団体」のホームページなどから検索ができるようになっています。
調査技術者や建築士事務所名がわからない場合は、都道府県や市町村を指定するだけで該当する調査技術者が一覧で表示されます。不動産会社から斡旋を受けた調査技術者がいる場合は、技術者名で検索すると該当者が表示されます。
調査技術者の詳細ページには所属する事業所が表示され、WebサイトのURLもほとんどの場合表示されるので、事業所の事業内容や次のような点を確認します。
上記のポイントは不動産会社からの斡旋を受けた場合も、念のため検索ページで確認することが大切です。
インスペクションは既存住宅(中古住宅)の流通活性化を図るために国も力を入れている仕組みです。インスペクションを実施することで、売主も買主も安心できる不動産売買が可能になります。
インスペクションの実施は特定の講習を受けた建築士が行い、第三者の立場から客観的に売買物件を調査して現状を報告する仕組みになっています。
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