送電線路敷設地役権|不動産用語集
送電線路敷設地役権(そうでんせんろふせつちえきけん)
電力会社等が送電線(主に変電などの用途をもつ高圧線)を敷設するため取得する地役権。
送電線を支える鉄塔を建設する土地については所有権、賃借権等の権原が当然必要であるが、送電線が他人の土地の上部空間を通過する場合であっても、土地の所有権はその上下に及ぶ(民法第207条)ことから、権利設定が必要となる。また、高圧であるため安全確保が要求されるとともに、安定的・継続的な電力の供給を担う設備であることから、送電線から一定の距離の空間を確保し、土地については建築行為や形質の変更等をはじめ、自由な使用を禁止または制限するほか、点検や修理等のために電力会社の社員が立ち入るなどの必要が生じる。
このような場合には、電力会社と土地の所有者との間で地役権設定契約を締結することがあり、電力会社から土地所有者に補償料が支払われる。行為制限の態様は、送電線が通過する場所や高さ、電圧によって違い、電気事業法等に基づく技術的な基準が存在する。また、土地の評価については、例えば相続税や固定資産税の評価等においても、特別の計算方法や減価率が定められている。
般的に地役権は、登記されていれば、土地の購入者等の承継人や第三者にも対抗できるとされているが、登記がなくても明白に認識できる場合には対抗し得るという判例があり、通過している送電線等送電設備の存在は、一般には明白に認識できることから、いったん地役権を設定した後の電力会社の立場は強いものと考えられる。
宅地建物取引業法第35条に定める重要事項説明においては、「当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容」等が対象となっている(同条第1項第1号)が、登記されていない場合でも、上記のような事情から取引に関する重要な事実であると考えられており、媒介業者が地役権について購入者に説明しなかったことが売買成立後に問題となった事例では、裁判所は、瑕疵(現行の民法では「契約不適合」に該当)は軽微であるとして契約解除や損害賠償は認めなかったものの、説明を怠った業者に慰謝料の支払いを命じている。
建築行為等の制限や経済的価値の低下だけでなく、健康被害や心理的不安が問題とされることも想定されるところであり、取引に際しての購入者等への事前の説明は重要である。
関連用語
- 土地賃借権
- 土地賃貸借契約にもとづいて、土地を賃借する権利のこと。
土地賃借権と地上権はよく似ているが、次のような違いがある。 1.土地賃借権は債権だが、地上権は物権である
2.土地賃借権は、土地所有者の承諾を得なければ、他人に譲渡することができない。
3.土地賃借権は、ほとんどの場合、土地登記簿に登記されない。
用語解説
地役権
地役権とは、他人の土地を自分の土地の利便性を高めるために利用することができるという権利である(民法第280条)。「通行地役権」などがある。
所有権
法令の制限内で自由にその所有物の使用、収益および処分をする権利をいう。
物を全面的に、排他的に支配する権利であって、時効により消滅することはない。その円満な行使が妨げられたときには、返還、妨害排除、妨害予防などの請求をすることができる。
近代市民社会の成立を支える経済的な基盤の一つは、「所有権の絶対性」であるといわれている。だが逆に、「所有権は義務を負う」とも考えられており、その絶対性は理念的なものに過ぎない。
土地所有権は、法令の制限内においてその上下に及ぶとされている。その一方で、隣接する土地との関係により権利が制限・拡張されることがあり、また、都市計画などの公共の必要による制限を受ける。さらには、私有財産は、正当な補償の下に公共のために用いることが認められており(土地収用はその例である)、これも所有権に対する制約の一つである。
相続税
相続や遺贈によって取得した財産に対して賦課される税をいう。
この場合の財産には、相続時精算課税制度の適用を受けて贈与により取得した財産を含む。
納税義務者は財産を取得した者であるが、税額の算定に際しては各種控除などが適用されるので、十分な注意が必要である。
一般的な相続税額の算出手順は次の通りである。
(1)課税価格の算出
取得した財産の価額から、一定の生命保険金等の非課税財産の価額、小規模宅地に係る減額相当額などを減じ、相続時精算課税に係る贈与財産価額や3年以内の贈与財産の価額などを加算して、課税財産額を算出する。
(2)相続税総額の算出
ア 課税遺産総額の算出:(1)で算出した課税価格から、遺産に係る基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を減じる。
イ 法定相続人の取得金額の算出:アで算出した課税遺産総額を民法に定める法定相続分に従って取得したと仮定して、各法定相続人の取得金額を算出する。
ウ 法定相続分ごとの取得金額に応じた相続税額の算出:イで算出した金額に相続税率を乗じて算出する。税率は、取得金額に応じて、10%から55%まで累進的に定められている。
エ 相続税総額の確定:ウで算出した法的相続人ごとの相続税額を合計する。
(3)各人ごとの相続税額の算出
(2)エで確定した相続税総額を、各人の実際の相続割合に応じて按分し、相続税額を算出する。
各人ごとの相続税額=(2)エの価額×各人の相続割合
(4)各人の納付税額の算出
(3)の価額から、相続人の属性に応じて、配偶者税額軽減、未成年控除などの各種税額控除額を減じ、各人の納付税額を確定する。この場合、財産取得者が被相続人の配偶者、父母、子供以外の者である場合には、相続税額の20%相当額を加算して納付税額が算出されることに注意が必要である。
相続税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内に申告納税しなければならない。
固定資産税
毎年1月1日現在において、土地・家屋等を所有している者に対し、市町村が課税する地方税のこと。
不動産の所在地の市町村が課税の主体となるので、実際の徴収事務は市町村の税務担当部署が行なう。
固定資産税の納付方法については、年度初めに市町村から土地・家屋の所有者に対して、固定資産税の「納税通知書」が送付されてくるので、それに従って年度内に通常4回に分割して納付することとされている(ただし1年分をまとめて先に支払うことも可能である)。
固定資産税の税額は原則的に「固定資産税課税標準額の1.4%」とされている。
ただし、一定の新築住宅については固定資産税額の軽減措置が実施されている。また、住宅用地については固定資産税課税標準額そのものが6分の1または3分の1に圧縮されている。
固定資産税は毎年1月1日において、固定資産課台帳に所有者として登録されている者に課税される。
従って、年の途中で不動産の売買が行なわれて、所有者が変わった場合であっても、納税義務者は元の所有者となる。こうした場合には不動産売買契約書において、その年度分の固定資産税額の一部を新所有者が負担するという特約を設けることが多い。
宅地建物取引業法
宅地建物取引の営業に関して、免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を定めた法律。1952年に制定された。
この法律に定められている主な内容は、宅地建物取引を営業する者に対する免許制度のほか、宅地建物取引士制度、営業保証金制度、業務を実施する場合の禁止・遵守事項などである。これによって、宅地建物取引業務の適正な運営、宅地および建物の取引の公正の確保および宅地建物取引業の健全な発達の促進を図ることとされている。
重要事項説明
宅地建物の取引において、宅地建物取引業者が取引当事者に対して契約上重要な事項を説明することをいう。
また、その際に、説明の内容を記載して当事者に交付する書面を重要事項説明書という。
重要事項説明を必要とするのは、宅地建物取引業者が自ら売主として取引する場合、および不動産取引を代理・媒介する場合であり、その説明は、売買契約や賃貸借契約を締結するよりも前に行なわなければならない。また、説明に当たるのは宅地建物取引士でなければならず、さらには、説明する重要事項をすべて書面に記載し、取引当事者にその書面(重要事項説明書)を交付する必要がある(相手方の同意を得たうえで電磁的方法で書面を交付し、IT(インターネット等)を用いた説明を行なうこともできる)。
説明を要する事項は、売買か賃貸かなどの取引内容に応じて異なるが、大きく分けて、
1.取引対象不動産の権利関係、2.取引対象不動産に係る法令上の制限、3.取引対象不動産の状態やその見込み、4.契約の条件
に関する事項とされている(詳細は必ず直接に法令(宅地建物取引業法第35条およびその関連法令)に当たって確認されたい。また、臨機に改正も予想されるので留意が必要である)。
重要事項説明は、不動産の特性や取引の形態に起因して取引当事者に不利益が発生することを防ぐための仕組みとされ、その適正な実施が強く求められている。
瑕疵
法律上の欠点や欠陥。瑕疵があると、意図した法律的な効果は完全には生じない。瑕疵の具体的な内容や法律効果への影響は、民法に定められている。
例えば、詐欺・強迫によってなされた意思表示は、「瑕疵ある意思表示」として、表意者は取り消すことができる。あるいは、悪意・過失・強暴・隠秘による占有は、「瑕疵占有」として、即時取得、時効取得の完成、果実の取得が求められない場合がある。
また、売買の目的物が契約に適合しないものであるとき(契約不適合の場合)には、買主は追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除をすることができるが、これは、売主が目的物の瑕疵についての担保責任(瑕疵担保責任)を負っているからである。
なお、債権関連の民法改正(2020年4月1日施行)までは、売買の目的物に「隠れた瑕疵」があったときには売主に瑕疵担保責任を課す旨の規定があった。この規定は改正によって削除され、瑕疵担保責任は、改正で整備された契約不適合に関する規定によって対応することとされた。
損害賠償
違法行為によって損害が生じた場合に、その損害を填補することをいう。
債務不履行や不法行為などの違法な事実があり、その事実と損害の発生とに因果関係があれば損害賠償義務を負うことになる。その損害は、財産的か精神的かを問わず、積極的(実際に発生した損害)か消極的(逸失利益など)かも問わず填補の対象となる。
ただし、その範囲は、通常生ずべき損害とされ、当事者に予見可能性がない損害は対象とはならない(相当因果関係、因果の連鎖は無限に続くため、予見可能性の範囲に留めるという趣旨)。
損害賠償は原則として金銭でなされる。また、損害を受けた者に過失があるときは賠償額は減額され(過失相殺)、損害と同時に利益もあれば賠償額から控除される(損益相殺)。
なお、同じように損害の填補であっても、適法な行為(公権力の行使)によって生じた不利益に対する填補は、「損失補償」といわれて区別される。