特定都市河川浸水被害対策法|不動産用語集
特定都市河川浸水被害対策法(とくていとしかせんしんすいひがいたいさくほう)
都市河川の流域における浸水被害対策を定めた法律。
2004(平成16 )年に公布された。治水を、流域対策を含めて実施するための仕組みを定めていることが特徴である。
この法律で定められている主要な対策事項は次の通りである。
1.特定都市河川および特定都市河川流域の指定
著しい浸水被害が発生し、またはその恐れがあって、通常の河川整備による浸水被害の防止が市街化の進展により困難な河川およびその流域を指定する。指定は、国土交通大臣または都道府県知事が行なう。
2.流域水害対策計画の策定
浸水被害の防止を図るための流域水害対策計画を策定する。同計画は、河川管理者、下水道管理者、都道府県知事および市町村長が共同して作成し、
1)河川管理者による雨水貯留浸透施設の整備
2)事業実施によって利益を受ける地方公共団体間の費用負担
3)条例による下水道排水設備の貯留浸透化の義務付け
などについて定める。
3.雨水の流出の抑制のための規制等
1)著しい雨水の流出増をもたらす一定規模以上の行為についての都道府県知事の許可、許可に当たっての雨水貯留浸透施設の設置義務付け
2)一定規模以上の防災調整池を保全調整池として都道府県知事が指定、埋立等の行為についての都道府県知事に対する届出を義務付け
3)地方公共団体による保全調整池の所有者との承継効を有する協定の締結と当該保全調整池の管理
4.都市洪水想定区域および都市浸水想定区域の指定等
1)都市洪水(河川の氾濫)または都市浸水(内水による溢水・湛水)により浸水が想定される区域を都市洪水想定区域・都市浸水想定区域として指定・公表
2)地下街管理者による浸水時の避難等に関する計画作成および公表の努力義務
5. 貯留機能保全区域および浸水被害防止区域の指定
1)浸入した水や雨水を一時的に貯留する機能を有する土地の区域を貯留機能保全区域として指定し、盛り土などの行為の届出を義務付け
2)洪水や雨水の出水によって建築物が損壊・浸水し、著しい危害が生じる恐れがあると認められる土地の区域を浸水被害防止区域として指定し、特定の開発行為について許可を得ることを義務付け

用語解説
下水道
下水を排除するために設置する施設の総称で、配水管等、処理施設、ポンプ施設などから構成される。
下水道には、汚水と雨水とを別々に排除する方法(分流式)によるものと、両者を同時に排除する方法(合流式)によるものとの2つの種類がある。また、汚水を排除する下水道には、下水を河川や海域に放流すべく処理するための終末処理場が設けられている。
下水道によって下水が排除される区域(下水道の排水区域)内においては、建築物の所有者等は、原則としてその土地の下水を下水道に流入させるための施設(排水設備)を設置しなければならず、また、汚水を終末処理場で処理できる区域(下水道の処理区域)内で汲取り便所が設けられている建築物を所有する者は、一定期間内にその便所を水洗便所に改造しなければならないなどの義務を負う。
雨水貯留浸透施設
雨水を一時的に貯留し、又は地下に浸透させる機能を有する施設。
雨水貯留浸透施設は、民間事業者等が自主的に設置して浸水被害を防止できる。そこで、一定のものについては、認定を受けて、設置に対する助言や支援を得ることができる。
また、施設設置後の管理を容易にするべく、地方公共団体または公共下水道管理者が、雨水貯留浸透施設の所有者等と管理の方法、有効期間等を定めた管理協定を締結し、管理する仕組みが定められている(特定都市河川浸水被害対策法・下水道法)。この協定によって、地方公共団体等は施設を管理する排他的な権利を取得する。
雨水貯留浸透施設の管理協定は、土地所有者等が変わる場合でも引き続き効力を有するため、宅地建物取引業者は、取引や取引の代理・媒介に当たって、管理協定について重要事項として説明しなければならない。
地方公共団体
地域における行政を自主的、総合的に実施する役割を担う団体。その組織、運営、財務などについては、憲法の規定に基づき、地方自治法等によって定められている。
普通地方公共団体である都道府県・市町村と、特別地方公共団体である特別区・地方公共団体の組合・財産区の二種類に分類され、いずれも法人である。また、市町村は、地域の事務を一般的に処理する基礎的な地方公共団体である。
地方公共団体は、地方自治の本旨に基づいて組織し、運営しなければならない。この場合、地方自治の本旨とは、「団体自治」(国から独立した地域団体によって自己の事務を自己の機関・責任で処理し、国家から独立して意志を形成すること)および「住民自治」(住民が行政需要を自らの意思・責任によって充足し、意志形成において住民が政治的に参加すること)であるとされている。
貯留機能保全区域
河川氾濫水や雨水を一時的に貯留し、流域の都市浸水を抑制する機能を保全するために指定された土地の区域。現に農地等として貯留機能が保全され、かつ、都市浸水が想定される土地の区域などが対象で、貯留機能保全区域に指定されると一定の行為について届出が必要となる。特定都市河川浸水被害対策法に基づく制度で、区域の指定は、土地の所有者の同意を得て、都道府県知事等が行なう。
貯留機能保全区域内の土地において、盛り土、塀の設置など氾濫水や雨水を一時的に貯留する機能を阻害する行為をしようとする者は、行為に着手する30日前までに、行為の種類、場所、設計・施行方法、着手予定日等を都道府県知事等に届け出なければならない。都道府県知事等は、都市浸水の拡大を抑制する効用を保全するため必要があると認めるときは、届出をした者に対して必要な助言または勧告をすることができる。
貯留機能保全区域の指定は、土地の所有者が変わる場合でも引き続き効力を有するため、宅地建物取引業者は、取引や取引の代理・媒介に当たって、この制限がある旨を重要事項として説明しなければならない。
盛り土
傾斜のある土地を平らな土地にするために、土砂を盛ること。宅地造成のための工法として広く使われている。これに対し、土砂を切り取ることを「切り土」という。
盛り土は、土砂を積み上げただけでは、地盤沈下、地震時の滑動崩落(地滑り的変動)や液状化、大雨による崩落や土砂流出などが起きやすい。転圧や地盤改良工事によって、これらを防ぐ必要がある。特に、大規模盛土造成地については、変動予測調査を実施し、危険箇所の滑動崩落防止工事を進めていくことが重要である。
宅地造成工事規制区域内の土地において、i)高さ1mを超える崖を生じる盛り土、ii)高さ2mを超える崖を生じる切り土、iii)盛り土と切り土をあわせて高さ2mを超える崖を生じる造成工事、iv)面積500平方メートルを超える盛り土・切り土を同時にする場合には、着手する前に、知事(または政令市・中核市・特例市の市長)の許可を受ける必要がある(宅地造成等規制法第12条1項・同施行令5条)。ただし、都市計画法による開発許可を受けて工事する場合は、改めて宅地造成等規制法の許可を得る必要はない。
建築物
建築基準法では「建築物」という言葉を次のように定義している(建築基準法第2条第1号)。
これによれば建築物とは、およそ次のようなものである。
1.屋根と柱または壁を有するもの
2.上記に付属する門や塀
3.以上のものに設けられる建築設備
上記1.は、「屋根+柱」「屋根+壁」「屋根+壁+柱」のどれでも建築物になるという意味である。
なお、地下街に設ける店舗、高架下に設ける店舗も「建築物」に含まれる。
浸水被害防止区域
洪水や雨水によって住民等の生命・身体に著しい危害が生じるおそれがあるとして指定された区域。原則として、流域水害対策計画において床上浸水(水深50cm以上)が想定される区域が対象となる。浸水被害防止区域に指定されると、一定の開発・建築について制限がある。特定都市河川浸水被害対策法に基づく制度で、区域の指定は、都道府県知事等が行なう。
浸水被害防止区域内の行為制限は、次の通りである。
(1)開発行為の制限
予定建築物が要配慮者施設など一定の用途である開発行為をしようとする者は、あらかじめ都道府県知事等の許可が必要である。許可を得るためには、崖面の保護など浸水が発生した場合における土地の安全上必要な措置を講じなければならない。
(2)建物用途の制限
建物用途が、非自己居住用住宅、要配慮者施設(要配慮者が利用する社会福祉施設、学校、医療施設等)、市町村が条例で定める円滑な避難が期待できない施設である場合には、建築しようとする者は、あらかじめ都道府県知事等の許可が必要である。許可を得るためには、想定洪水等に対して安全な構造で、かつ、居室の床面の高さが基準水位以上でなければならない。
なお、宅地建物取引業者は、取引や取引の代理・媒介に当たって、浸水被害防止区域に関する制限について重要事項として説明しなければならない。
開発行為
都市計画法上の開発許可の対象となる行為のこと。
1.趣旨
都市計画法では、無秩序な開発を規制するために、宅地開発に対しては知事(または市長)の許可が必要であると定めており、これを開発許可という(都市計画法第29条)。この開発許可の対象となる行為が「開発行為」である。
2.定義
開発行為とは、正確には「主として建築物の建築または特定工作物の建設の用に供する目的で行なう土地の区画形質の変更」と定義されている(都市計画法第4条第12項)。
ここで「特定工作物」と「土地の区画形質の変更」の意味については、おおよそ次のように定義されている。
1)特定工作物
コンクリートプラント、ゴルフコース、1ha以上のテニスコートなどのこと(詳しくは特定工作物へ)。
2)土地の区画形質の変更
宅地造成、道路の新設などを伴う土地区画の変更、農地から宅地への変更などのこと(詳しくは土地の区画形質の変更へ)。
2.の定義に該当しない行為は、開発行為ではないので、開発許可を必要としない。例えば、1ha未満のテニスコートの建設のための宅地造成は、開発行為に該当しない。また建築物を建築する目的で、登記簿上で土地を合筆することは「土地の区画形質の変更」ではないので、開発行為に該当しない。